言語科学専攻(博士課程)
言語科学専攻とは
多言語を研究対象に、言語のメカニズムに迫ります
本専攻の研究対象は英語だけでなく、日本語を含めた多言語に及びます。日英対照研究や個別の自然言語研究を通して、言語の普遍的特性を探り、人間の認知や思考、言語習得、コンピュータによる言語処理メカニズムを追究。言語科学をベースに、認知科学、心理学、言語情報処理など関連領域を視野に入れた研究を進めています。
特色としては、1年次の2分野専攻によって得られる幅広い体系的知識と研究指導、最新の言語情報処理に関する実技訓練などが挙げられます。さらに、各研究領域を有機的・多角的につなげることで、豊かな語学運用力と情報処理能力を獲得します。人文科学・自然科学の双方の対話を可能とする国際水準の人材となることをめざし、体系的研究だけでなく、実務と応用にも重点を置いています。理論的な言語科学研究者、教育工学の実践的研究者、コンピュータと言語に精通した言語処理研究者を養成します。
育成すべき人材
言語学の理論的研究者のほか、
教育工学や言語処理の研究者を育成
本専攻の特色は、言語科学の体系的な研究指導と、最新の言語情報処理に関する実技的訓練。本専攻ではこの二つの特色を活かし、広く体系的な知識を持つだけでなく、研究情報を多角的に取得・処理・表現でき、自然科学・工学との有機的な対話も可能な、国際的レベルの研究者・技能職業人の育成に務めていきます。
言語科学研究者
十分な語学力と豊かな表現力を持ち、他の分野の研究者とも充分に対話できる上、総合的な最新理論を兼ね備えた、言語科学の理論的研究者を育成します。
教育工学研究者
優れた語学力はもちろん、語学教育や言語理論についての知識を充分備え、CALLなどの教育工学機器も自在に駆使。豊富なデータの取得・処理能力や、プレゼンテーションソフトウェアの操作法にも長けた、教育工学の実践的研究者を育成します。
言語処理研究者
コンピュータによる自然言語処理と人間の言語処理の双方に深い知識を持ち、統一的にアプローチできる研究者育成が目標。言語と情報の理論とその応用技術の開発に、人文科学的知識で貢献する研究者を育成します。
教育課程の特色と構成
言語科学の中核領域を総合的に研究、語学力や実務的情報力も重視
言語科学の中核領域が主軸
音声学・音韻論・形態論・統語論・意味論など、言語科学分野の中核領域を主軸として研究。言語の性質を探求することによって、人間の認知能力の全般的解明を目標にします。
総合的・体系的
本専攻は小規模ではありますが、言語科学を中心に各分野にわたって教員を配置。総合的な研究・研究指導が可能となっています。学生は特定分野の研究に限定するのでなく、複数の分野に習熟するようカリキュラムを編成。1年次では二つの分野を専攻科目として資格審査論文を課し、その結果によって博士学位論文の分野とテーマを決めるよう指導しています。
基礎的研究方法の重視
英語などの外国語運用能力と、コンピュータの使用能力は、現代の言語科学研究では不可欠な基礎知識。こうしたことから語学とコンピュータの訓練は、博士課程でもカリキュラムの重要な位置に据えています。
実務への応用
言語の理論的研究を行う際にも、実務への応用を視野に入れながらの研究・教育を実施する点は、修士課程の英語学専攻と同様。「フィールド・ワーク」、「言語と統計」など、実務の現場で役立つ実習系の科目を重点的に履修できるよう、カリキュラムを編成。実務的・応用的分野の研究を推奨するだけでなく、理論的な傾向の研究を行う際にも、実務的知識を発表のテクニックなどに生かすよう、研究指導を行っています。
履修方法
2分野の専攻で論文提出、応用研究も必ず視野に入れて研究
博士課程を修了するには3年間在学して研究指導を受けた上、博士論文の審査と最終試験に合格する必要があります(ただし在学期間特に優秀な研究業績をあげた者は2年以上の在学で構いません)。博士課程に入学した学生は、3年間に特定の専門分野の研究題目を決め、学位論文を提出しなければなりません。
複数教員のコンサルテーション
複数分野に習熟するため、特定分野の教員だけでなく、複数の教員と定期的に、コンサルテーションを持つよう指導しています。
語学と実技
本専攻では必要に応じて、本学修士課程・英語学専攻の外国語授業の聴講を義務づけるほか、外国人教員とのコンサルテーションなどを通じて語学力を向上。また、他大学からの進学者や実習系科目の「応用理論研究Ⅰ」および「リサーチ・プレゼンテーション」の未習者には、指導教員・担当教員との協議の上で聴講を義務づけており、言語情報処理への習熟も図っています。
スケジュール
本専攻で博士課程を修了し学位論文を提出するには、原則として次のスケジュールに沿って研究を進めなければなりません。
【1年次】
まず1年次の初めに学位論文を書こうとする分野を2分野指定、その分野を研究する教員を指導教員と定め、それぞれの教員が担当する授業科目を聴講します。例えば統語論に関わる理論的な博士論文を書く予定の学生なら、応用言語学的な分野の中から1分野を選んで「資格審査論文」を書くという指導を実施。これにより言語学の各分野について、幅広く習得していきます。こうして習得した2分野について、1年次終了までに研究論文をそれぞれ1編ずつまとめ、「資格審査論文」として提出。この論文が両方とも合格した段階で、指導教員との話し合いで「主専攻」分野を決定。その分野の指導教員を決定します。この「主専攻」が学位論文のトピックを決める分野となります。
【2年次】
2年次の前期終了までに指導教員とのコンサルテーションを持ちながら、学位論文のトピックを決定。論文の概要や中間報告にあたる論文を提出し、指導教員による審査とコンサルテーションを受けます。そして2年次の後期終了までに口頭による中間報告発表を行い、質疑に答えることになります。この発表は大学院担当教員や大学院生などが同席する公開の場で行われます。
【3年次】
3年次終了までに学位を得るには、3年次の7月に博士論文の概要を大学院担当教員・大学院生らの同席する公開の場で発表。その結果、執筆許可を得られれば、11月末までに博士論文を提出することになります。論文提出者には2月までに、論文審査委員会(大学院担当教員若干名)による最終口頭試問を実施。これに合格すれば学位が授与されることになります。
授業科目一覧
言語科学専攻では次の系列の授業を提供し、カリキュラムを構造的に組織します。
言語科学研究演習 II |
(文法論) |
担当: 西垣内 |
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現代の文法理論は心理的実在としての言語能力の解明を第一の使命とする。この目標を達成する道筋としては、複数の言語の事象を対照的に捉えてそれらの背後に横たわる原理を求めていくことと、子どもが言語能力を獲得して個別言語を使用することを可能にする道筋を解明することが必要である。前者は対照文法論、後者は言語獲得理論の問題である。
具体的には、日本語、英語などを対照的に観察しながら、文の構造と語順などの特性が、量化のスコープ、照応形や代名詞の束縛などの論理構造的諸現象とどのように関わるかを考察する。統語論、意味論、およびそれら両分野が関連しあう領域の新しい考え方を前提として、独自の分析を構築し、展開していく。
また、このような文法論で研究される諸問題を理論的に追求した上で、子どもの自然発話データの収集や実験の企画と実行などを通して、それらが第一言語習得にもたらす理論的帰結を実証的に示す。
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言語科学研究演習 III |
(形式意味論・計算言語学) |
担当: 郡司 |
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意味論に関係する最近の話題から題材をとり、文法の形式化とその表示の関係について考察する。自然言語の意味記述のためにもっともふさわしい形式化はどのようなものかという立場から、伝統的述語論理の限界について触れ、それを乗り越える理論として提案されたいくつかの理論を概観する。具体的には、状況意味論、動的述語論理、E-type 代名詞、談話表示理論、Griceの談話の公準の形式化、最小再帰意味論、認知意味論などを検討し、自然言語に対する形式的表示理論の有効性とその限界を考える。
さらに、言語情報の機械処理という観点から、人間の情報処理行動に関するモデル化とその効率的な処理という立場を導入する場合の問題点を考察し、言語情報の特質を浮きぼりにする。また、それをふまえて、人工知能研究の問題点を明らかにし、意味の機械処理の可能性を検討する。
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言語科学研究演習 IV |
(社会言語学) |
担当: 松田 |
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文法理論の発展は、従来未解決とされてきた言語変異・変化の問題にも説明を与えることが珍しくなく、また変異現象が特定理論のサポートを提供することも稀ではない。この授業では変異理論の中心的諸問題を、その問題が提起された言語事象を取り挙げつつ、現在の諸文法理論の枠組みで再検討する。参加者で新しいデータを持ち寄り、新たな枠組みからの分析を試みることで、旧来の問題に関して解決の糸口を探ることを目論みる。データは自分で収集したものでも、出版済みのものでも良い。具体的には、青年文法学派的音韻変化と語彙的拡散、機能負担量と音韻変化・変異の相関性、統語的変異分析と指示的同一性の要件、プライミング効果と変異分析の関わり、言語内的要因と外的要因の独立性、恒速度変化仮説を論じる。参加者は過去のアプローチに拘泥せず、自分の専門とする枠組みで、過去に提起された問題に対していかにより簡潔な説明が考えられるかを追究する。
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言語科学研究演習 V |
(語用論) |
担当: 柏本 |
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モダリティとその周辺
モダリティを中心とした英語の動詞文法によって表現される心理的・対人関係的意味について、その体系的な整理の可能性について考察する。モダリティの概念でとらえられる現象はきわめて幅広いものである。命題の真偽判断の他、価値判断、感情表現、発話行為の様態、あるいは発話行為の選択そのものなど、さまざまな心理的・主観的現象が持つ共通の性質を観察し、英語のモダリティ表現の全体像の理解につなげたい。テンス、アスペクト、ムードという動詞文法の三大カテゴリーの心理的表現としての機能のほか、心態表現の動詞、知覚動詞、形容詞・副詞による発話態度の表現などさまざまな語彙的表現による心理表現の機能について考察し、モダリティの概念の本質について議論する。 |
言語科学研究演習 VI |
(外国語教育) |
担当: 作井 |
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この授業では、まず第二言語習得理論について学習し、この過程において、各理論の歴史的背景、またそれらのつながりを学ぶことにより、現行の外国語教育への洞察を深めることを第一の目標とする。次に外国語教育研究の領域は、第二言語学習理論の範囲のみにとどまらず、心理学、言語学、社会学などの影響を受けた研究も多々見られる。またこれらの研究は、研究方法も様々であり質的、量的なデータが収集され分析されている。これらの研究を幅広く読むことにより研究方法についての知識を得た後、最終的には自分で研究が行えるようなレベルに到達することを目標とする。
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入試実績
受験者数 | 合格者数 | 入学者 | |
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2020年度 | 0(0) | 0(0) | 0(0) |
2019年度 | 0(0) | 0(0) | 0(0) |
2018年度 | 1(0) | 1(0) | 1(0) |
2017年度 | 0(0) | 0(0) | 0(0) |
2016年度 | 1(0) | 1(0) | 1(0) |
注1:一般選抜、社会人特別選抜の合計数
注2:( )内は男子の数で内数
入学者 出身大学(過去5年間実績)
・神戸松蔭女子学院大学大学院・ノートルダム清心女子大学大学院
2010年9月、アメリカ メリーランド大学 言語学科に本専攻の学生は、学費は免除、奨学金も得られるという好条件での留学でした。この学生はPh.D.(博士)の学位を取得し、日本の国立大学の助教として就任が決まっています。本専攻にはこのような留学を果たした修了生たちがいます。こういった人材の育成のため、高いキャリアをめざせる環境を整えています。