[人間科学部ファッション・ハウジングデザイン学科]卒業研究で遠藤新による大正期の住宅「上代邸・星島邸」を再現

2023.03.27

2022年度のファッション・ハウジングデザイン学科の卒業研究の中で、楠戸杏奈さん(インテリア分野・米原ゼミ)は、「母校・山陽学園高校のクラブハウス計画 ―遠藤新による上代邸・星島邸の再生―」というテーマに取り組みました。

楠戸さんの出身高校である岡山市の山陽学園は、明治期に基督教会に集う有志が中心となって創設した伝統ある学校で、大正時代後期の校舎の増築と、50年余にわたり校長をつとめた上代淑(1871~1959)の自邸を建築家・遠藤新が設計しました。

遠藤新(1889~1951)は、アメリカの20世紀最大の建築家、フランク・ロイド・ライト(1867~1959)の愛弟子であり、「旧帝国ホテル」や「自由学園明日館」、芦屋の「旧山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)」などでライトと協働したほか、「旧甲子園ホテル(現・武庫川女子大学 甲子園会館)」や様々な住宅など、ライト建築を受け継いだ素晴らしい建築作品を設計したことで知られており、その多くが重要文化財や登録有形文化財に指定されています。

今回、楠戸さんが研究対象としたのは、山陽学園からほど近い場所に大正13年に建てられた「旧上代邸」および一体的に建てられた「星島邸」です。「旧上代邸」は、明治期にアメリカに留学し、その後女子教育に尽力した功績で上代淑が叙勲されたのを祝って、卒業生らが寄贈した住宅です。また上代氏は「隣人を愛せ」という言葉を大切にし、この住宅が生徒や卒業生らの交流の場となっていました。

これらの建築は、すでに昭和60年代に解体され、現存しませんが、楠戸さんは山陽学園に保存されていた当時の資料や、遠藤新の図面資料、同時期の現存する建築等を詳しくリサーチしました。遠藤新の御令孫で建築家の遠藤現氏にもインタビューし、東京の遠藤作品をご案内いただいたり、たくさんのご助言と資料提供をいただきました。そして再現案を図面と3Dパース、模型で表現し、冊子にまとめました。

上代邸のあった場所(移築先)を計画場所とし、外観をできるだけ復元しながら、上代氏の精神を受け継ぐよう、星島邸も含めて再現した建築を、新たに茶道部や箏曲部等のクラブハウスとして使用する他、授業、会議や交流会としての使用もできる設定で、建築計画を考えました。内部は多目的に使える和室、洋室を配置し、学校関係者や保護者、卒業生の方が交流の場として使いやすく、楽しく過ごせる空間を提案しています。

この研究内容は、卒業研究発表会で発表し、千と勢サロンで行われた卒業研究展での展示も行いました。そして、去る3月8日には山陽学園を訪問し、貴重な資料の提供や助言をいただいた山陽学園の谷本理事⻑、学園資料室の先生方にご報告の機会をいただき、研究内容をまとめた冊子と模型を詳しくご覧いただきました。よくがんばったとお褒めの言葉もいただき、今後は図書館等に展示し、山陽学園高校の生徒さんたちにも、研究成果を閲覧していただけるとのことです。

楠戸さんは、もともと文化財、とりわけライトの建築に興味を持ち、高校生の時に知った遠藤新について、研究したいと考えていました。自らとても積極的に行動し、4年間の大学の学びで身につけた知識やスキルをフルに生かして、この研究をまとめることができ、大きな達成感を感じられたようです。今後は建築会社に就職し、目指していた木造住宅を設計する仕事に携わりながら、さらにこの研究も深めていきたいとのことです。


山陽学園での報告の様子

再現模型と楠戸さん

鳥瞰パース(全景)

外観パース

内観パース(上代棟ホール)

内観パース(星島棟和室)

上代邸ポストカード(山陽学園資料室提供)

上代邸の写真(山陽学園資料室提供)
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